暗闇の中で

どんなに君を見失っても









snow flake−雪降る街に−








「寒…」

建物から出てくるなり濃紺の髪の青年がひとり呟いた。
呟いたときの息は白く、外の気温の低さを物語っている。

そういえば今日は雪が降るらしい、と同僚が言っていたのを聞いた気がする。
仕事中は天気を心配などしていられないのだから聞き流していたが、同僚の話は嘘ではないらしい。

青年は、立ち止まって空を見上げた。
うす暗い空。空の蒼を多いつくすどんよりとした雲。
今にも雪が降り始めてきそうな空だった。

「おっと…。」

こんなことしている場合じゃない。

自分の気分さえ落ちてしまいそうな空を見るのを止め、青年は足早に歩き始めた。
手にしていたマフラーをしっかりと首に巻き、自分の車が置いてある駐車場へと向かう。


ただ、一刻も早く家に帰りたかった。
家で待っている最愛の人に会いたかった。


青年は駐車場へ着くとすぐに自分の車に乗り込み、急いで発車した。
運転しながらも見える街中は、この寒さの所為なのかあまり人の姿はない。
人がいたとしても、帰宅を急いでいるであろう人たちばかりだった。

戦争が終わり、平和になりつつある世界。
愛するものを守り、愛するものと一緒に過ごす世界。

そんなことを思うと、少しばかり寂しさを感じた。

…ただ、なんとなく。

自分にも愛する者がいて、側にいてくれている。何を寂しく思うのだろうかと疑問に思った。


……隣にいないから、なんだ。


彼女が今自分の隣にいないから寂しいんだ、という結論に行き着いた。
自分が何をしていても彼女のことばかり考えてしまっていることに気づいて少し笑えてしまう。




君はどう思うのだろうか。
自分とは逆に“楽しい”と思うだろうか。

そう
君はいつも自分とは違う考えだった。
予測が出来ないような違った視点で物事を見ていた。
それがとても新鮮で、面白くて、嬉しかった。

自分と同じ場所で見ていて欲しいとは思わなかった。
ただ、君と同じ視点で何かを見てみたかった。

だから、
ずっと君に夢中なんだ。

…違う。

それは言い訳で、ただ側にいてほしかった。
君を守りたいと思った。
君が側にいるだけでこんなにも世界が変わってしまった。




きちんと運転をしながらも考え事をしていたら、いつの間にか家の前まで来ていた。
いつも自分を笑顔で迎えてくれる彼女が待つはずの我が家。

彼女の笑顔が美しくて、愛しくて仕方がなかった。

しかし、今日は様子が違っていた。
明かりのつかない我が家。不思議に思い、玄関の扉を開けようとしたが開かなかった。
鍵のかかった扉。それは我が家に誰もいない証拠。
彼女がいない…証拠。

彼女が黙っていなくなることなどなかったのに…何故?
ただただ不安になる。彼女に何かあったのだろうか。

「キラ…。」

思わず口に出してしまった愛しい人の名前。
かつては手を伸ばしても彼女には届かなかった。でも、今は違う。




『会いたい。』

…君に。

今すぐに抱きしめたい。




そう思った。


「キラ…!」

青年は目的地もないまま走り出した。



誰もいない家の前に、雪が降り始めた。
ただ静かに雪が舞い落ちる。







暗闇の中で

どんなに君を見失っても

君が待っていてくれるのなら、君を必ず見つけ出してみせる。

俺が

どうしようもないくらいに、君を求めているんだ。
















一部アスラン視点のモノローグっぽいですがアスランの名前は出てきてません。
書き直すって言ってもちょっと書き足したりしただけです。(05.12.23/09.01.30改訂)



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